閃光のように 第4話


ルルーシュは泣いた。
ひたすら泣いた。
7年分泣きまくった。
押さえていた色々なモノが溢れ出したのか止まらなかった。

結果。

クロヴィスが仲間になりました。

「まさか泣き落としがこれほどまでに有効だとはな」

さすが俺。
演技は完ぺきだった。
ルルーシュは不敵に笑いながらキーボードを軽快に打っていた。

「いや、お前本気で泣いてただろう。ごまかすな」

あれは演技だった事にし、どうにか自尊心を保とうとしている男に私はピシリと言った。
男の動きもピシリと止まる。

「・・・C.C.」

地をはうような重低音で男がうめいた。
一部始終を見ていた私に虚勢など意味はない。
嘘を並べた所で意味もない。
それは当然理解しているのだろう、憎々しげに口元を歪めていた。
私は口元に笑みを浮かべると、手に持っていたものに熱い視線を向けた。

「ピザ○ット、クレイジー○ケットのL」

シャツ一枚でベッドに寝転がる私の手には今朝の朝刊に入っていた折り込みチラシ。これには私好みのは美味しそうな写真が載っていた。
私の大好物、ピザだ。

「・・・・もしもし、アッシュフォード学園のクラブハウスです。クレイジー○ケットのL1枚お願いします」

ルルーシュは躊躇うことなく携帯を取り出すと注文をした。

「いい心がけだ」

理解力の早い男は嫌いじゃない。

「・・・口止め料だ」
「解っているさ。あれは演技で、お前が流した涙は・・・そう、玉ねぎを刻んで目に染みたからだったな」

だから涙を流しても仕方ない。
きっと私たちもつられて涙を流していたに違いない。
笑いをこらえながら私はそう言った。

「待て、そこはせめて目薬だろう!」

どこに玉ねぎがあった!
むしろあの場所にあったらおかしいだろう!!

「いや、お前は涙を流しながら玉ねぎのみじん切りを作っていたに違いない。あれはな、泣けるぞ」

私の言葉に、男は深く深く息を吐いた。
なんだ?
何でそんなに呆れた顔を向けてくるんだ。

「お前、料理下手だろう」

ずばりと断言した。
得意か不得意かと聞かれれば、後者である私はすっと目を細めルルーシュを見た。

「玉ねぎのみじん切りをする際、あらかじめ玉ねぎは冷やし、ちゃんと研がれた包丁を使い素早く刻む、そして鼻ではなく口で呼吸すれば何も問題は無い」

催涙物質が鼻から侵入し、目の粘膜を刺激する。そのため涙が出るのであって、口で呼吸をするだけでもある程度防げる。
その回答に、私は驚いた。

「おまえ・・・まさか・・・。料理を、作れるのか?」
「馬鹿にしてるのか?」
「いや、純粋に驚いただけだ」
「それなりには作れるさ。自分で作れば毒の心配も格段に減るからな」

まあ、今は信頼している咲世子が居るが。

「そう言えばそうか。死なない体になって長いから、毒殺なんてすっかり忘れていたよ」

今では毒を飲んでも頭痛や腹を壊す程度だからな。

「・・・まあいい。それよりもこれだ」

ルルーシュは新聞をばさりとこちらに放った。
開かれたそのページには、シンジュクゲットーでのテロせん滅作戦時に、一般人を無差別虐殺した人物として一人の少年の写真が載っていた。

「ああ、シンジュクゲットーでの虐殺の罪を、全てくるくるすざくに押し付けるようだな」
「くるくるじゃない、枢木だ!」
「似たようなものだろう?あの髪とよく似た名前じゃないか。それに」
「スザクの髪はくるくるではない!ふわふわだ!」

頭の中もくるくるだろうと続けようとしたのだが、ルルーシュの力強い否定の言葉で遮られた。

「別にいいじゃないか、くるくるでもふわふわでも」

大差は無いだろうと思うのだが、ルルーシュはここ最近で一番真剣な表情でこちらを睨みつけてきた。

「いいや、天と地ほどの差がある!」
「・・・そうか」

あいつの髪がくるくるだろうがふわふわだろうがどちらでもいい。
ただ、これ以上論じてしまえばこの男の機嫌を損ねかねない。
そうなればピザが食べれなくなるかもしれないので私は口を閉ざした。
それにその後の人生設計の事も考えると、ここから追い出されるのも困る。
私の呆れを含んだつぶやきを肯定と受け取ったらしく、解ればいいとルルーシュは引き出しから黒い携帯電話を取り出し、早速相手に掛けていた。

説明しよう。

この黒い携帯はクロヴィス直通電話だ。
クロヴィスが持つ同じく黒い携帯電話にだけ繋がる。
ただしクロヴィスの電話は受信専用だから、こちらに掛ける事は出来ない。
それでも異母弟と連絡が取れるとクロヴィスは大喜びだった。
なので電話の相手は当然クロヴィスだ。

1コール。
2コール。
3コール。ルルーシュは眉間にしわを寄せた。
4コール。視線で人が殺せそうなほど目を鋭く細めた。
5コール。苛立ちと共に激しく舌打ちをした。
6コール。

『やあゼロ、愛しているよ!!』
「俺は貴方への愛が醒めそうですよ殿下」

開口一番で愛をささやいた異母兄に低く冷たい声でルルーシュは答えた。

『な、ど、どうしたんだい?政策は君の願いどおり融和路線に切り替える方向で・・・』
「そんな話じゃない!」

ルルーシュは怒りのままに怒鳴りつけた。
電話の向こうでヒッという短い悲鳴と共にきっと腰を抜かしたに違いない。
その姿を想像し、笑いがこみあげてきた。
ルルーシュがぎろりと睨みつけてきたので、声を聞こえないようにするため、私は毛布を頭からかぶり、声を押し殺した。

「兄さん、枢木スザクの話です」
「くるくるすざく?誰だねそれは」

やっぱりくるくるだろう!同士が居た!
そう思いながら肩を震わせていると、毛布越しに冷たい視線を感じた。

「く・る・る・ぎです。親衛隊や他の兵の話は隠ぺいし、全ての罪を名誉ブリタニア人の一等兵に押し付ける気ですか?」
『な、何の話だね?』

完全に困惑している様子のクロヴィスの声に、もしかして知らないのか?とルルーシュは判断し、一度息をつき感情を抑えると、今度は幾分か穏やかな声で話し始めた。

「あのシンジュクゲットーでのイレブンの虐殺。その主犯として名誉ブリタニア人の枢木スザクが槍玉に挙げられました」
『そうなのかい?』

特に興味は無さそうな声で返事をされたことで、少しは穏やかになっていたルルーシュの感情は急降下し、冷え冷えとした口調で告げた。

「その枢木スザクですが、あの日俺を庇い撃たれた、いわば俺の恩人なんです。しかも俺とナナリーの幼馴染で、更に言うなら俺の親友でもあるんですが?」
『な!?そ、そうだったのか!るるー・・・ゼロの恩人なら私の恩人。ならばすぐに・・・』
「・・・いえ、待ってください」

兄の反応に気をよくした男は何か思いついたらしい。
2・3秒間を開けてから話しだした。

「裁判にはこのままスザクを連れて行ってもらいましょう。どうせならテレビカメラも交え、大々的に裁判所まで連行してください」
『どうするつもりだね?』
「俺が、助けに行きます」

そう来たか!
C.C.は目をキラキラと輝かせ、小さな子供が新しいおもちゃを見つけたような視線でルルーシュを見た。
あまりにも楽しそうなC.C.の笑みに、ルルーシュは眉を寄せた。

「兄さんはそうですね、バトレー将軍を使い秘密裏にスザクに罪をなすりつけた者たちを探してください。そしてスザクが俺を庇い撃たれた後、どこで何をしていたのかも調べてください。あくまでも、秘密裏に」

いいですね?
念を押すルルーシュに、任せてくれ給えとクロヴィスは請け負った。
そして通信を切ると、笑いをこらえながら楽しげに見つめてくる魔女を一瞥した。

「お前・・・笑いすぎだろう」

何がそんなに楽しいんだ?

「いやだって、お前、くくくく、助け出すって事は、使うんだよな?ギアスを」

その言葉に、ルルーシュの顔色はさっと青くなった。

「ぷくくくく、女の子になるんだよな、お前。くくくく、いやだいやだと言いながら、快感だったんじゃないのか?」
「それはあり得ない!」

ルルーシュの強い否定などどこ吹く風。
C.C.は腹を抱えてさも楽しげに笑い転げた。
下着も付けず、ルルーシュのシャツ一枚の姿でだ。
ルルーシュは一気に顔に朱を上らせ、顔をそむけた。
その反応も楽しくてC.C.の笑いは止まらない

「不老不死者というのは随分と楽しそうだな」
「くくくく、そうでもないさ。私はここ数百年、作り笑い以外で笑った事など無い。お前のおかげで笑うという感情を思い出した所だよ」

久しぶり過ぎて笑いが止まらない。
そう言いながら笑い転げる魔女を背に、ルルーシュは「・・・そうか。良かったな」と呟いた。

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